音楽で立ち直った話
私が中学一年生の頃、登校して教室に入ると空気が違って感じました。どこか冷えた空気で肌をぴりりと刺された気分でした。周りの同級生は私に構わずに会話を楽しんでいます。違和感を覚えながらも自分の席に着くと隣に座っていたいつもは挨拶から始まって他愛のないおしゃべりをする友人が座ると同時に立ち上がって私から一番遠い場所へと向かいます。ここでも不思議に思った私は荷物の片付けもそこそこにその子を追い掛けました。しかしそれでも私を避けるように教室を出て行き、確実に避けられていると思いました。授業が始まると隣の席の子はさすがに戻って来ましたが、声を掛けても返事はありませんでした。
いつも仲良しだった友人たちはそれから毎日のように私を居ないものとしましたが、それでもクラスの人の中には声を掛けると返してくれる人も居たりして「彼女たちから嫌われたのだろうな」と心の整理も付いて来た頃に、今度はその話してくれていた人たちからも無視をされる様になりました。私は自分が何をしたのか全く身に覚えはありません。けれど実際こうして無視をされている以上私に原因があるのだと思い、それでも心のどこかで「明日になったらきっと前みたいに話してくれる」と信じていたように思います。ですが一向にその日は来ません。
私は徐々に教室へ入れなくなりました。最初は教室へ行かずに保健室へ登校していましたが、登校中や下校中などには他の生徒と顔を合わせなければなりません。顔を合わせても何を喋る訳ではないのですが、その頃の私は顔を知らない生徒すら全てが敵に見えてしまい、まるで私を笑っている様な気持になっていました。保健室にも行けなくなり、自宅に篭りきりになってしまいました。外出すれば同級生に合うかもしれない。ただそれだけを恐れて部屋の中で本ばかり読んでいました。
そんな陰鬱とした私が唯一心を緩める事が出来るのは、母が気分転換にと買ってくれた一枚のクラッシックCDを聞いている時だけでした。その曲を聞くとどこか気持ちが真っ白になり、悲しいも辛いも何もかもが溶けて行く様でした。ですがその曲が終わると、私は現実へと帰りまた直ぐにその気持ちが積み重なって行く心地です。
気付けば一日中その曲を流している様になっていましたが、日にちが経っていくに連れて再生回数が減っていきます。それと同時に心の中にあったもやもやとしたものが少しずつ消えていく様でした。
私はそれから学年が上がってクラス替えが行われるまでは学校には行けず仕舞いでした。ですが、学年の変わる始業式の日にはとても軽い気持ちで登校し、あんなに入れなかった教室には普通に入る事ができました。私は、音楽で立ち直る事が出来たのです。